コラム

[2009/04/06] 第9回 「出社が楽しくなる経済学」をみて

2009年1月から3月にかけて、NHK教育テレビで「出社が楽しくなる経済学」という番組が放送されていました。昨今の世界的経済不況の影響で、経済というものに対して特に関心があるわけではない私のような人間でも、デリバティブやサブプライムローンといった経済学の専門用語を耳にする機会が多くなっています。そういった中で何の気なしにみたこの番組がとても面白く、また経済学に対しての私の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。今回のコラムではこの番組から私が知ったことについて書こうと思います。

「出社が楽しくなる経済学」は寸劇を交えて普段の仕事や生活の中で起きうる問題を取り上げ、そこにある経済学の考え方をみつけることをコンセプトとしています。毎回経済学のキーワードが1つ挙げられており、私が最も感銘を受けたのが「比較優位」という考え方でした。番組でも紹介されていましたが、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ポール・サミュエルソンは、比較優位について「経済学はこれ以上含蓄のある発見をほとんどしていない」とまでいったそうです。

比較優位とは、もともと国際貿易を踏まえた国家間の分業を考える理論でした。そこから番組内の寸劇では有能な同期社員と比較して全ての面で劣っていると嘆く主人公に、相対的な得意分野を持つことで誰にでも(もちろん主人公にも)仕事上の役割はあると説きます。番組の例では、素晴らしいアイデアを持つ経営者が自分より事務処理能力の劣る秘書を雇った場合でも、事務処理は秘書に任せるべきだとしています。当然だという方も、なぜだろうと思う方もいらっしゃると思います。比較優位の考え方では、その仕事をすることで犠牲になった仕事(機会費用といいます)を比較します。社長は1時間に経営業務を4、事務処理を20できるとし、対して秘書は1時間に経営業務を1、事務処理を10できるとします(表1)。経営業務と事務処理の双方で社長が優れています。では、機会費用でみてみるとどうでしょう。社長は経営業務1につき事務処理5ができ、秘書は経営業務1につき事務処理を10できます(表2)。

表1. 1時間にできる仕事の比較
  経営業務 事務処理
社長 4 20
秘書 1 10

表2. 機会費用の比較
  経営業務1毎の事務処理 事務処理1毎の経営業務
社長 5 0.2
秘書 10 0.1


表2をみると、事務処理1毎の経営業務は社長が、経営業務1毎の事務処理は秘書の方ができることになります。これを「社長は経営業務に、秘書は事務処理に比較優位を持つ」と考えます。具体的には「事務処理1をする場合、社長は秘書よりも2倍の経営業務を犠牲にする」といえます。効率を追求する会社であれば社長は経営に専念してもらい、事務処理は秘書に任せるべきでしょう。秘書は自分が社長よりも全ての仕事で劣っていたとしても悲観することはありません。社長自身の仕事の無駄を省くために秘書は必要とされるのです。

私はこの番組をみるまで、経済学という学問が自分に深く関係のあることではないと思っていました。しかし、実際は自分の身の回りに当たり前のようにあることの中にも経済学が取り入れられ、活かされているということをこの番組から教えてもらったと思います。「比較優位」という考え方を知りあらためて気付いたことは、会社という存在もまた「一人は皆のために、皆は一人のために」という原則の上にあるということでした。個人の持つ能力を集団の中で効率良く活かし、最大限の利益を得るために会社はある、そう考えると番組のタイトルどおり毎日の出社が楽しくなりませんか?自分だけのためではなく、他人のために自分を犠牲にするのでもなく、みんなで幸せになるために行くのですから。 <角>


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