コラム

[2010/05/06] 第22回 「言語力」

言語力とは、コミュニケーションのために言語を運用する(話す、聞く、読む、書く、考える)のに必要な、個人に内在する能力のことである。

いま教育現場や企業などの現場では、「作文に話し言葉をそのまま書く中学生」、「面接で想定外の質問をされると答えられない大学生」、「営業報告書や会議の議事録がまともに書けない若手社員」が増えている。

仕事などで本来の目的を伝えても、要点がつかめずに的外れのことを考えたり話し出す。自分が何を考え何をしたいのかを、相手に正しく伝えることができない。皆さんの職場でも、このように感じた経験はないだろうか。

ドイツの母国語教育では、日本と同様に「話す、聞く、読む、書く」のカリキュラムの他に

 ・要点を聞き取る力を養うために、物語を聞き自分の力で再生する訓練
 ・視点を変えた時に、何が認識でき認識できないかなどを考えさせる訓練
 ・レポートや議事録の書き方から小論文の書き方、発表で正しく説明する訓練

などの「考える」教育が重要視され、古くから取り入れられている。

論理的思考を単純化すると「判断と根拠」(考え)、「原因と結果」(事象)に分けて考えることができる。思考や論理の基礎となるのは正確性であり、事実を記録する→描写する→報告するとの言語表現法を身に付けること、さらに「思い(感情や気持ち)を述べる」ことと「考え(判断と根拠)を説明する」ことは相違することを理解し、区別することが必要である。

日本ではこの「考える」教育が不足している。

「暗黙の了解」、「言わなくても分かってくれるはず」などの表現方法は、文化、言語、価値観などが多様化した現代社会においては通用しないだろう。イタリア料理店チェーンのサイゼリヤを飛躍的に成長させた正垣泰彦社長の「1を聞いて10を知るではなく、1を聞いて10の理由を考える」、私が好きな言葉のひとつである。

文部科学省は2006年から2007年にかけて、教育関係者による言語力育成協力者会議を計8回実施するとともに、2007年10月に財団法人 文字・活字文化推進機構を設立し、昨年(2009年)10月には全国1万人の学生などが参加し「言語力検定」を行っている。 <s.o>


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