コラム

[2010/12/06] 第29回 吉野家を通じて思うこと

吉野家の苦悩

私は週に何度か吉野家に足を運ぶ。途中同業である、すき家の前を通るが、客の入りは一目瞭然。すき家のほうが客が多い。同じ店に行くことが多いので他店の状況はわからないが、吉野家は経営的窮地に立たされる日が来るのではないかと一人の愛好家としては不安を感じる。
それを払拭するかのように 9月から低価格の新商品「牛鍋丼」の販売を始めた。価格は 280円で、牛丼よりも 100円安い。この価格設定は明らかに同業であるすき家の牛丼 280円、松屋の牛めし 320円に対抗したものであることは察しがつく。店に行く度、他の客が何を注文するのか聞き耳をたてているが、10人中 7、 8人は「牛鍋丼」を注文する。私はお試しで一度だけ注文したことがある。しらたきが幅を利かせ、小さく切った豆腐が一つ乗っている。牛肉、ご飯どちらの量も牛丼より少ない。味は牛丼に比べると甘い感じがする。これは明らかに牛丼とは違う。「安ければよいのか?」「そこまでしなければならないのか?」と考えている間にも、サラリーマン、OL、学生は次から次へと「牛鍋丼」を注文する。その光景を見るといつも「何か違うのではないか?」という思いが募る。

10月以降に報道された内容によると、 9月の売上高は前年同月比5.9%増となったが、10月は3.8%減となっている。低価格商品の投入により集客には成功したものの、経営的には起爆剤に成り得なかった。

“誇り”を取り戻すために

吉野家には牛丼業界の第一人者を自負して、我が道を突き進んでほしい。同業他社の値下げ競争の誘いに乗る必要はない。他社は客寄せのために、数あるメニューの中で牛丼だけを安くしているにすぎない。違う見方をすれば、牛丼に関しては吉野家と同じ価格では勝ち目がないと判断しているのかもしれない。
キャッチフレーズである「うまい・やすい・はやい」の中の「うまい」で、とことん勝負してほしい。すでに他社の比ではなく個人的には満足しているが、できるならさらなる集客に結びつく 100円の差を埋めて余りある味を極めてほしい。

また、接客でも他社を圧倒してほしいという思いがある。吉野家に限ったことではないが、接客に余裕が感じられない。私がよく足を運ぶ店では、年配の女性や学生風の男性が働いているが、何ヶ月経っても手際の良さに成長が感じられない。言葉の響きには働いていることに対する満足感、大袈裟にいえば“誇り”が感じられない。「忙しい忙しい大変だ」しか伝わってこないことが多い。店に居る時間はほんのわずかでも、気持ちよく食べたい。「これは“顧客満足度”に通ずる?」と考えながらカウンター席に座っている。主婦や学生に求めるのは酷な話なのだろうか。

“こだわり”を持って

このようなことを考えながら、「自分に照らし合わせるとどうなのだろう?」と考えたりもする。味⇒品質?、接客⇒対人折衝?、低価格⇒低コスト、高生産性?…。ユーザーから、「どうすれば信頼してもらえる?」「どうすれば喜んでもらえる?」、「仕事は楽しんでやらないといけない?」…。
どの業界のどのような仕事であれ、「たかが○○、されど○○」という思いを胸に、まずは“こだわり”を持って取り組むことが重要なのかもしれない。

最後に…
吉野家の吉の字は、正しくは「土(つち)」に「口(くち)」と書く「つちよし」。ホームページの企業情報の社名の欄に説明が記されている。吉野家の“こだわり”の一つなのかもしれない。 <M.K> 


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